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ふる里 自然と人とのぬくもり
- 考古堂書店
未来のふるさとを語る / 日本写真家協会会員 清水重蔵(2007年)
「ふるさとは語ることなし」「ふるさとは遠くにありて思うもの」多くの先人たちが歌い語ったふるさとへの思い。中澤勝は写真でふるさとを語った。カメラが南越後の人と自然の中に分け入って、郷愁という懐かしさではなく、現在を切り取ることで、次代へ伝えていくべきふるさとのありようを問いかけている。
遠く離れて思うふるさとは新鮮に映るが、住みながらふるさとを撮ることはなかなか容易なことではない。「地元を撮るのは有利ですね」とよく言われるが、距離的な有利さはあっても愛するが故に冷静に見え難くもする。想いが日常生活の中に埋没もする。
フォトコンテスト等の作品はこの限りではないが、テーマを持つ写真集を上梓するには並大抵でない努力と感性が必要である。重い雪を乗せ甍の向こうにウサギの走る荒れた日本海。寒風に耐え三脚を据えて見つめるカメラ、眼を転じて雪の窓からこぼれ出る団らんの光に、中澤の暖かいカメラアイがある。棚田に咲く一本の桜に雪解けと同時に訪れる越後人の待春を感じる。車の光跡に帰りを待つ家族の笑顔が浮かんでくる。写真を撮ることで出会ったふるさとの美しさに驚愕し、その思いを確認するためにひたすらシャッターを押す中澤の姿がある。厳しいがゆえの美しさに魅せられた、生活者しか映せないふるさとの讃歌がある。
カメラを持って走り回ることで、生まれた柏崎市だけでなく、県南をふるさとと捉えるグローバルな感覚が備わった。この写真集は中澤勝のふるさとの集大成であり、43歳の生き方綴りでもある。私はある選評会で、中澤のすばらしい写真に出会い、作品を見ることを約束した。後日大量の作品を見る間もなく私と共通の匂いを嗅ぐことで、新潟県を写真で紡ぎ続ける同士を一人発見した喜びを禁じえなかった。その作品がこの度写真集「ふる里」として世に出た。我が事のように嬉しいと同時に、若いライバルが誕生したと喜んでいる。ひとつだけアドバイスするならば、写真集を編むときは、撮影時の思い入れや感動を引きずらないことである。二度と撮れない写真も、撮影の苦労も見る人には遠く無縁なところにある。これでもかと見せることでなく、如何に捨てて主張を研ぎ澄ませるかであり、その意味で、類似と思われる作品点数を減らし変化を感じさせることで、むしろ一貫した主張が感じられる写真集となったであろう。
写真集を出版することで、多くの人たちが注目する写真家としてのスタートラインに立ったが、これからも、若さゆえにエネルギーに溢れる、朝な夕なの極彩色でないところにもある南越後の色を見つけ、侘び寂びの境地をも表現できる長い写真人生を続けて欲しいものである。もう一度言わせてもらう、この写真集はふるさとを懐かしむだけでなく、現在を見て、未来のふるさとを語る写真集である。